私が23、4歳ぐらいのころすでに退職した職場の40代の女性の先輩が「しじまちゃんって、冷え性だったよね!冷え性がなくなる健康器具あるから連れって言ってあげる!無料だよ!」と言われ、「なにそれ~、本当に?・・・」とあんまり気乗りしなかったけど先輩だったし断り切れなくてその健康器具の体験会に参加したのだ。
場所はスーパーの駐車場に設置されたプレハブ小屋。来ていたのは高齢者ばかりだった。健康器具の営業マンは、元気な体育会系の20代の男性だった。その営業マンはハイテンションで、健康器具を紹介する。「小林麻央さんの乳がんは冷え性が原因です。冷えは体に良くないですよー!」冷え性による免疫力低下のことを言っているのだろうか?
9月の九州はまだ暑く、私はクーラーがなく20人くらいの人が密集している中で気分が悪くなりそうだった。おまけに疑り深い性格なので、「本当かよ・・・」と終始思っていたので全然楽しいものではなかった。
中でも驚いたのは、営業マンが観客にクイズを出すのだが、先輩が「ハイハイハイ!」と手を挙げて答えていてノリノリだったこと。(尚、仕込みとかではなく好きでやっている模様)仕事を辞めて無職だった先輩は、毎日その体験会に通っていたそうだ。
ショックを受けたのは、高齢の男性が「末期がん闘病中だが、ここに来てよくなった気がする」とみんなの前で話していたこと。壇上ではなく、自分の席で言っていた。(今思えばこの人が仕込みかも)でもそれをここで言ったら癌に効くと言っているようなものでは・・・?ここにいる人たちが手放しに信用しないといいけど、と私は思った。
最後に、なぜか名前を書かないといけない場面になった。横に先輩がいたけど、偽名で通した。先輩とはもう会わないと思ったので変な空気になってもいいと思ったからだ。
人が信用するものと、私が信じる者は違うのでそれは各々あっていいと思う私だ。だけれど異常なまでの熱気とそれを信奉する人は、健康器具の体験会といえど宗教に似たようなものだと感じた。
通い詰めて、内容を暗記した先輩を怖いと思った。他人の悪意を感じることに怖さを感じたことはあるが、こういう怖さは人生で初めてだった。その日以降先輩とは連絡を取っていない。