essay by shijima

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『熟柿』を読んで- 「悪人」よりも怖かったもの

最近読んだ 熟柿
読み終わったあと、なんとも言えない複雑な感情が残った。

最初に強く感じたのは、「夫、薄情だな……」ということだった。

作中で特に引っかかったのは、夫が事故に気づいていたこと。
もし自分なら、絶対に車を降りて確認すると思う。怖くても、現実から目を逸らせないと思う。

でも彼は、その場で「関わらない」を選んだ。

しかもその後、罪を償って戻ってきた妻を受け入れなかった。
そこに強い悪意があるというより、「自分の平穏を守るために距離を取る」という感じで、それが逆に生々しく、残酷に見えた。

ただ、不思議なのは、読み進めるうちに妻への印象が変わっていったことだ。

正直、最初の方はあまり反省を感じなかった。
もっと取り乱したり、罪悪感に押し潰されるような描写を想像していたので、「そんな

に冷静なの?」という違和感があった。

でも、それは“反省していない”というより、現実をまだ受け止めきれていない状態だったのかもしれない。

人は大きな出来事の直後、感情が麻痺して、まず「どう乗り切るか」に意識が向くことがある。
そう考えると、あの温度感も妙にリアルだった。

そして、時間をかけて罪と向き合っていく姿を見て、私は途中から妻の方に感情移入していた。

だからこそ、最後まで変わらなかった夫の姿が印象に残る。

もちろん、現実には彼のような人もいるのだと思う。
正しさより、自分の生活や平穏を守ることを優先する人。
だから単純に「悪人」と切り捨てられない。

でも、私はやっぱり、パートナーなら一緒に現実を引き受けたいと思ってしまう。
少なくとも、事故に気づいたなら車を降りるだろうし、もし罪を償って戻ってきたなら、簡単ではなくても向き合おうとすると思う。

読後感は重い。
でも、「罪を犯した人」より、「周囲の人がどう振る舞うか」の方が怖い作品だった。